体験談
◆突然の不登校宣言
「ぼく、明日から学校行かないから」
その言葉はあまりにも突然で、はじめは意味が飲み込めませんでした。
夏の気配と湿った空気が入り混じった6月、小学3年生の息子はそう言い放ちました。
よくよく話を聴いていくと「やなことがあった」と打ち明けてくれました。
お友達同士でふざけていたとき、押し倒された上に2人くらいが乗ってきたのだそうです。そのときの怖さが、息子の中に強く残ってしまったのだと思います。
先生にも訴えたらしいのですが、真剣に聴いてもらえなかったのだとか。
“よくあるふざけ合いの延長”だと捉えられたのかもしれません。
先生には助けてもらえない。
味方がいない。
これから自分はどうなってしまうのだろう。
心の中が不安でいっぱいになってしまったようでした。

【お母さんのプロフィール】
2人のお子さんのお母さん
現在中学1年生の長男さんが小学3年生のときに不登校を宣言したのをきっかけに、子育て心理学カウンセラー養成講座を受講。
◆幼少期からの悩み
実は息子が小学校に入る前から、わたしは子育てに悩んでいました。
息子はいやなことを「いやだ」と意思表示ができないタイプ。
ストレスをためた結果、身体に症状が出てしまうことが度々あったのです。
「気持ちわるい」「お腹がいたい」など、心のSOSが体に出る子でした。
どうすれば、たくましさが育つのだろう。
このままの状態で大きくなっていいのだろうか。
親に言われるままに動いていくのは何かが違う。
息子が「もう学校に行かない」と言ったとき、ずっと目をそらしてきた問題を、真正面から突きつけられた気がしました。
◆保健室での穏やかな時間
「引っぱって学校に連れて行ける雰囲気ではなさそうですね」
学校に事情を話すと、不登校のコーディネーターの先生が来てくださり、息子の様子を見ておっしゃいました。
「とりあえず1週間休んで、月曜日に保健室でいいから来てちょうだい。約束ね」
先生のやさしい言葉に、わたしもなぐさめられました。
1週間が過ぎ、保健室登校を続けていたある日、当事者の子と担任の先生が来てくれました。
「あのときのこと、あやまりたい」
こうして仲直りのような形がとれました。
また、「夏休みにも学校に行っておくと、休み明けがスムーズかもしれない」というちひろ先生のアドバイスを受け、お休み中にも2度ほど息子と学校にお邪魔しました。
担任の先生が学童に来ていたクラスメイトを連れてきてくださり、少しの間おしゃべり。穏やかな時間が過ぎていきました。
9月になったら、何ごともなかったように笑顔で登校できるかもしれない。
小さな希望の光が灯ったような気がしました。
けれどもその後、思いもよらない出来事が起こり、教室復帰への道はまた遠のいていったのです。
◆再燃した不信感
2学期を迎え、担任の先生と約束した日。
息子は緊張しながらも、勇気を出して学校へ向かいました。
ところがその日、先生が来なかったのです。
「急に来られなくなってしまって……」
説明を受けたものの、詳しい事情はわからずじまい。
そのまま、顔をあわせることもなく退職(もしくは休職)されてしまいました。
熱意のある先生でよくしていただいたぶん、ショックでした。
前を向きかけていた矢先の出来事。
息子の中にまた「先生を信じても大丈夫?」という不安が芽を出してしまいました。
新しい担任は生徒指導に慣れた中堅の女の先生で、保健室に来て、息子の気持ちに寄り添いながら声をかけてくださいました。
「今日は行けそう?」
「途中で嫌になったら戻ってもいいよ」
「1時間だけ教室に行ってみよう」
先生の優しさに支えられ、息子は少しずつ授業を受けるようになりました。
しかし、その表情はどこか暗く、いつも何かを思いつめたようでした。
◆心身の不調
息子の状態にシンクロするように、わたしも暗い気持ちで過ごしていました。
「なんで授業を受けないの」
サポートがあるのに普通に登校できない息子がもどかしくてたまりません。
ついガミガミと詰め寄ってしまったことがありました。
すると息子の呼吸は荒くなり、過呼吸の症状が出てしまったのです。
「……苦しい」
——ああ、ストレスをかけてしまった。
胸の奥がズキンと痛み、今度は後悔が押し寄せてきます。
教室に入ってみたものの、気分が悪くなってしまうことも度々ありました。
——きっとすごく、不安なんだろうな。
その頃わたしは、子育て心理学カウンセラー養成講座で「ココロ貯金」を学んでいました。そこで教えていただいた “認める”というメソッドが深く心に刺さり、とにかく実践してみようと心に決めました。
◆ココロ貯金を実践
“認める”とは、“ありのままの子どもの姿を承認する”こと。
「〇〇くん、おはよう」
「よく眠れたみたいだね」
「ちゃんと朝起きられたね」
「ご飯食べたね」
——もう、生きているだけで、全部OK!
あたりまえのことを言葉にして「認める」声がけをくり返すうちに、わたしの気持ちも、息子の表情も、少しずつ変わっていきました。
◆小さな自信を積み重ねて
先生のサポートを受けながら、息子は少しずつ授業を見学するようになりました。
歩いて登校するのはハードルが高いようだったので、先生の許可を得て車で送り、保健室で待たせてもらって、見学が終わると一緒に帰る——そんな日々が続きました。
図工など好きな教科の見学からはじまり、徐々に参加できる授業の幅が広がっていきました。
「1時間、教室にいられた」という成功体験が糧になり、それを1週間ほど続けた後に、
「じゃあ次は2時間いってみようか」
と、先生が優しく背中を押してくれます。
気分が悪いときはすぐ教室を出られるように、廊下側の席を用意してくださいました。
「行っても気分が悪くならない」という経験が自信につながり、1時間から2時間、2時間から3時間と、少しずつ少しずつ教室で過ごす時間がのびていきました。
2学期の終わりには給食を食べてから帰るようになり、3学期以降は5時間目までいられるように。
——ついに息子は、学校への復帰をはたしたのです。
◆その後の成長
4年生では、残念ながらガミガミタイプの先生が担任に。
帰ってくるなり「うるさーい」と文句たらたらでしたが、不登校に戻ることはありませんでした。
しんどくなったら1日休み、次の日は登校……といった具合に、自分でバランスをとるようになったのです。
「明日は行けそう?」とたずねると「うん、明日は行く」と答えてくれたので、わたしも安心して見守れるようになりました。
翌年の5年生では、一緒に遊んでくれる楽しい先生が担任に。
「あの先生、最高!」
家での表情も明るく、毎日とても楽しそうでした。
お友達と遊びに行くようになったのもこの頃。
低学年のときはなかったことで、息子の中で何かがはじけたようでした。
◆少し苦労した勉強の遅れ
授業をあまり受けられなかった3年生のときの学習はというと……。
先生から課題をいただき、国語と算数のドリルだけは毎日続けていました。
理科と社会はほとんど手つかず。
「小学校では、4年かけて理科と社会をやるようなものだから、あせらなくて大丈夫ですよ」
そんな先生の言葉に救われ、わたしも「時間があったら教科書読んでおいたら?」くらいの心持ちで、ゆったりと構えていました。
ところが4年生以降になると、掛け算と割り算のケタが増え、レベルがぐっと上がっていきます。
ドリルしかやってこなかった息子は、かなり苦労したようです。しっかり授業を受けていた他のお子さんに比べて、学習量が足りていなかったのだと思います。5、6年生になっても計算のスピードが上がらず、ときには頭を抱えていました。
「あーーー!!」
「もう消しゴムで消すのもいやだ」
息子のイライラが伝わってきます。
そんなときは「わからないことがあったら、そのままにする方が恥ずかしいから聞いてね」と声をかけました。
「わからない」と言ってもいい。
できなければ助けを求めればいい。
肩の力を抜いて生きていく術を、息子なりに少しずつ学んでいった気がします。
◆変化したコミュニケーション
その頃心がけていたのは、ココロ貯金を減らさないこと。
「ガミガミ」「クドクド」「ネチネチ」お説教をしない。
自分の意見は、息子の主張をいったん受けとめてから言うようにしました。
ああしたい、こうしたいと言われたとき、以前はストレートに「ダメ」と否定していましたが、
「すべてダメだとは言わないけれど、こうしてくれたらうれしいなあ」
と、ワンクッション置いてから伝えます。
すると不思議なことに、息子の返答も変わっていきました。
「気持ちはわかった」
「言いたいことはわかった」
そんなふうにわたしの想いを受けとめてから、主張するようになったのです。
わたしは言いたいことを言えない子だったので、「すごいな」と思いました。
親子のコミュニケーションは、あの頃から変わっていった気がします。
◆息子の今
今、息子は中学1年生。
のんびりしていた小学校とは違い、とても忙しそうです。
入部したバスケット部の練習は、走ったり筋トレしたりとなかなかハード。
へこたれないか心配しましたが、明るく前向きに毎日を過ごしています。
重い荷物をかかえてヘトヘトになって帰ってくる息子に
「おつかれー」
「よくがんばってるね」
と声をかけるのが、わたしの日課。
「忙しいーっ」
なんて弱音を吐きながらも「楽しみがあるからがんばれる」と言っています。
ココロ貯金は、エネルギーのもと。
信じてため続ければ子どもの中にエネルギーが満ちて、やがて花開くのだなと感じます。
「1学期より2学期の方がもっと楽しい!」
朗らかに笑う息子の瞳には、もうあの頃の不安や怯えはありません。
毎日が楽しい——それだけで十分。
キラキラと輝いている息子の学校生活を、ただ幸せな気持ちで見守っています。
お母さんが実践したココロ貯金
・ありのままの姿を「認める」
・ガミガミ、クドクド、ネチネチ言わない
・子どもに反論したいときは、一度受けとめてから“アイメッセージ”

