体験談
■22時から夜中まで
——今日もまた、泣くんだろうな。
ゆううつな気持ちで時計を見ると22時。そろそろ娘が塾から帰ってくる時間です。
帰宅したとき何か一つでもやるべきことができていないと、そこから大泣きがはじまるのです。
「塾の宿題が終らない」からはじまって、「寝る前にやらなきゃ」「今日中にやらなきゃいけないことがいっぱい」「学校の宿題も、塾の宿題もぜんぜん終わっていない」と、パニックになってしまうのでした。
駄々をこねる幼子のように、仰向けになり床をドンドン蹴りながら、かんしゃくを起こして泣きじゃくる。眠くなってくるとさらに混乱して「もうお風呂にも入りたくない」とわめく。
中学生は忙しく、学校から帰ってきて塾に行くまでの間に宿題をすべて終らせるのはむずかしいのです。よって、娘のかんしゃくはほぼ毎日のルーティーンになっていました。
およそ2時間。
夜中なので、ご近所から苦情が来ないか気にもなります。
クッションをあてがい「ドンドンするのはこの上でして」と頼んでみますが、効果はなし。
——早く泣きやんで。もう終わって。
気づけば日にちが変わっているむなしさ。わたしの神経まですり減って、消耗していきました。

【お母さんのプロフィール】
2人のお子さんのお母さん。
現在高校3年生の長女さんが中学生のときに、激しい癇癪(かんしゃく)に悩まされる。
子育て心理学カウンセラー養成講座を受講したのは、受験が迫る中学3年の冬。
■学校と家でのギャップ
学校での娘は、いわゆる「いい子」。
先生にもお友達にも評判がよく、面談すると「言うことはありません」とほめられる優等生でした。
学校から帰ってきたときは機嫌がよいので、塾が負担になっていたのだと思います。
まじめでがんばり屋な性格が裏目に出て「宿題が終らない」と心配になると、「歯磨きもしてない」「お風呂にも入ってない」と、数分で終わることまで「できていないこと」にカウントしてパニックに陥ってしまうのです。
高校受験が迫るにつれ、娘のかんしゃくは激しさを増していきました。
耐えかねて門をたたいたのが、東ちひろ先生が主宰される子育て心理学カウンセラー養成講座でした。
「お子さんの“取扱説明書”をお母さんが作って、お子さんに見せていくといいですよ」
そんなアドバイスをいただきました。
■娘のトリセツ
娘を観察してみると泣きわめいているときは、声をかけられるのも放っておかれるのも、もう何をされても嫌! という雰囲気。ですから横に座り、ただただ落ち着くのを待ちました。
興奮がおさまってきたタイミングを見計らい、
「ちょっと深呼吸してみよう」
「お茶飲んでみる?」
などと声をかけます。するとだんだん泣きやんでくるので、
「一緒に頭の中を整理しようか」
と続けます。
「何ができてない?」
「全部」
「一つずつあげていってみようか」
これをしていない、これもしなきゃいけないと涙ながらに訴えられる事柄をメモして、
「優先順位をつけてみよう」
と読み上げます。
すると徐々に鎮火して(2時間泣きつづければさすがに落ち着きますよね)、
「これとこれは来週までにやれば大丈夫。今日はこれだけやって寝る」
と冷静さを取り戻します。
「お風呂に入ってくる」
部屋を出ていく娘を見送りようやくひとりになると、いっきに力が抜けました。
——はあぁ……、長かった。
ここまでしないと頭の中を整理できないのだ。
いつまで続くの?
この子はちゃんと成人できる?
成人しても泣き続けるの?
先行きは見えず、暗い気持ちに支配されます。
彼女のトリセツは、親の忍耐力を試されるものでした。
■高校での変化
高校に入りたての頃は疲れが激しく、情緒も不安定でした。
入部した吹奏学部が強豪だったので、土日も練習。ついていくのも大変そうで、例のごとく泣きじゃくる日もありました。
けれども徐々に徐々に、様子が変わってきたのです。
トリセツの精度が上がったのかもしれません。
娘が不安定になる時期を予測できるようになり、わたしの負担感は緩和されていきました。
吹奏楽の大会前の追い込み時期や、高1での宿泊体験。
「初めてすること」や「予定変更」が苦手なのだと、傾向と対策がつかめてきたように思います。
「初めてのことって不安だよね」
と娘の感情を言語化してあげると本人も、
「そうだ、初めてだから不安なんだ」
と理解できるようでした。
パニックになり泣いてしまっても、落ち着いてから「今、こういう感情だったね」と話せるようになったのは大きな進歩。
本人も「うんそうだった」と受けとめて、「予定が変わったから不安だった」と、客観的に自分を見つめられるようになってきたのです。
実は失敗談もあります。
娘といろいろ話せることがうれしくて「こんなやり方もあるよね」とアドバイスしたことがありました。すると途端に娘の表情がゆがみ、
「わけわかんないことを言うから、余計わからなくなった」
と、パニックが増幅してしまったのです。
娘なりにいろいろ考えているのだ、親が選択肢を増やすのは得策ではないのだ、とトリセツを更新しました。
■「ワァーワァー」が「ポロポロ」に
早いもので、娘は高校3年生になりました。
あと少しで大学受験。相変わらず頑張り屋で、1日10時間以上は勉強しています。
アプリで勉強時間を記録して「今週は達成率100%!」などと励みにしています。
えらいなあと感心しつつ、それ以上にわたしがうれしく思うのは達成「できなかった」ときの捉え方。
昔だったらワーッとパニックになるはずですが、今は「まあいいや」とクールです。許容範囲が広がって肩の力が抜けた感じ。怒ったり泣いたりしても短い時間でおさまって、総じて情緒が安定しています。
泣き方も変わりました。
泣き叫んでいた中学生の頃とは違い、感情をリセットするかのようにポロポロ、ポロポロ泣くのです。
昔「なんでそんなに癇癪を起こすの?」とたずねたときに「泣いたらすっきりするから」という答えが返ってきたのを思い出します。その傾向は今も続いていて、頭がいっぱいになってしまったとき、泣いて浄化させているのかもしれません。
■自己肯定感を育んだ環境
娘は今、ものすごく自己肯定感が上がっています。
どんなことにも意欲的で、お友達には「その性格がうらやましい」と言われるそうです。
「あんまり落ち込まないんだよね」
あっけらかんと言い放った娘。
「それはいいことだね。すごく成長したね」
と応じると、
「自分でもそう思う」
と、にっこり。
吹奏楽部では「企画長」というポジションに立候補。多くの候補者の中から先輩たちに選ばれて、顧問の先生に怒られたり困難にぶつかったりしながらも、乗り越えてきました。
成功体験を積み、周りの信頼も得て、置かれた場所で活躍できたことが自信につながったように思います。
中学3年生の下の子が荒れていると
「中学生って大変だよね」
と自分のことは棚にあげ、下の子に寄り添っているときがあります。
漠然と「大変だった」記憶だけが残り、「毎日泣きわめいていた」ことは覚えていないようです(笑)。
■今、思うこと
感情を制御できなかった思春期の娘とわたしを救ってくれた、唯一の「特効薬」がココロ貯金でした。
白状します。
「お子さんのよいところを見てみましょう」と言われたとき、娘の長所が一つも思い浮かびませんでした。ココロ貯金をはじめた頃は「さあ、ココロ貯金タイムだ」とスイッチをいれて、努力して娘につきあってきたのです。
ところがいつからか「可愛いなあ」と感謝や愛しさが自然に湧き出るようになり、努力しなくても娘にココロ貯金をあげられるようになっていたのです。
親子の絆が深まったと感じています。
永遠につづく気がしたあの長い夜は、娘とわたしに必要な時間だったのかもしれません。
必死だった日々が今は愛しく、「子育ての醍醐味」を味わわせてもらっています。
◎お母さんが実践したココロ貯金◎
・わが子の“取扱説明書”を作って、子どもと共有
・気がすむまで泣かせた後に、頭の中を一緒に整理
・アドバイスをせずに「聴く」

